元ハンセン病患者の老女が、尊厳を失わずに懸命に生きる姿を丁寧に描いた人間ドラマです。
あん作りの得意な徳江とどら焼き屋の店主、そして常連客の中学生。人生と葛藤しながら生きる人々が、互いに影響し合いながら心を重ねていくこの映画になっています。
樹木希林の最後の主演作品。
映画『あん』のあらすじ、キャスト、感想(評価)をまとめてみました。
映画『あん』概要
公開日:2015年5月30日 (日本)
日本、ドイツ、フランス、香港、中国、ベトナムの6か国で公開されました。
上映時間:113分
【スタッフ】
監督・脚本:河瀨直美
原作:ドリアン助川『あん』
製作国:日本、フランス、ドイツ
映画『あん』あらすじ
桜の花が咲き誇る川沿いにある、どら焼き屋の雇われ店長である千太郎は、「どら春」で働きながら毎日を淡々と過ごしていました。常連客と言っても、来るのは近くの中学校の女学生たちくらい。まるでたまり場のようになってしまっていました。
そんなある晴れた日、一人の女性がやってきました。吉井徳江と名乗る老女は、アルバイトの広告を見つけ、ここで働きたいと千太郎に志願します。50年あんこを作り続けてきたと言う徳江。しかし高齢のため肉体労働でもあるどら焼き屋の仕事は任せられないと断ってしまいます。
すると徳江は再びやってきて千太郎にあるものを渡します。粒あんと知って一度はゴミ箱に入れてしまった千太郎でしたが、どうしても気になりタッパを開けてあんこを試食してみました。
その味は甘いもの嫌いの千太郎でも美味しいと感じるほどの逸品。あまりに驚き徳江をあんこ作り専門のアルバイトとして雇うことにしました。
いざ働くことになり、2人はまともな会話をし始めますが、そこで実は「どら春」のあんこは今まで業務用のものを使っていたことが発覚します。青ざめる徳江。それからあんこ作りを毎朝千太郎と一緒にやっていくことにしました。
次第に客は行列を作るようになり、あんこが変わったと評判になった「どら春」は、これまでとは見違えたように繁盛していきます。
しかしちょうどその時、千太郎は「どら春」のオーナーから徳江はハンセン病ではないかと、お客さんから問い合わせが入っていることを知らされたのです。客足が減りついに誰も来なくなってしまった「どら春」。
徳江を自分の母親にも重ねて、その働く姿に春のようなあたたかさを感じていた千太郎は、ついに泣く泣く徳江を解雇せざる得なくなってしまいました。心にぽっかりとあいてしまった穴。それは徳江も千太郎も同じだったのです。
映画『あん』キャスト紹介
【キャスト】
吉井徳江…樹木希林
千太郎と出会い「どら春」でアルバイトをする76歳の女性です。
本人曰く、あん作りは50年の腕前。
千太郎…永瀬正敏
「どら春」の雇われ店長です。過去に犯罪歴があり、慰謝料を「どら春」のオーナーに肩代わりしてもらいました。
ワカナ…内田伽羅
家庭の事情から今後の進路に悩む女子中学生です。「どら春」の常連客。いつも出来損ないのあんなしどら焼きをもらって帰ります。“マーヴィー”と名付けたカナリアを飼っています。
佳子…市原悦子
徳江の長年の友人で、同じ場所で暮らしています。
どら春のオーナー…浅田美代子
「どら春」の先代店主である夫が千太郎に託した店を、時々様子見に来ています。
ワカナの母…水野美紀
ワカナと2人暮らしで、結婚前の女性のような、母親として怠惰な生活をしています。娘の高校進学にも消極的。
映画『あん』感想(評価)
徳江の生き方全てをとても愛おしく思いました。短い間でも働けたという喜び、そして新しい人間関係が築けたこと。彼女の喜びや楽しそうな様子が、本当にこちらを幸せな気持ちにさせてくれました。
その長く深い人生経験が、登場人物や観ている視聴者全員を包んでくれていたように感じます。
そして何より徳江があんこに物凄く愛情を持って接しているのが、本当によく伝わってきました。
また千太郎の徳江を見るアップの絵は、それだけで母を見てる気持ちにあるのがよくわかり、千太郎の目に映るものが明確に見えてきて感動しました。
徳江があんを作っている姿は、今でも目に焼き付いて離れません。過去に自分が見た思い出と重なってしまう。
役者がイマジネーションとして存在しているものまで、映像で映し出されていた、実に素晴らしい作品でした。
映画『あん』まとめ
徳江の生きる姿がどの場面でも愛おしくあたたかく、不思議と懐かしく心に染みました。
そして隔離されて生きてきた人々の想いや願いも、重々しくなく春風に揺られるお花のように軽やかさを持って描かれています。
何かを残せなかったとしても、人は何のために生きてくるのか。自然の中で懸命に生きる人間の健気さすら感じさせるお話でした。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
コメント